暑いのに外へ出たがるムスメを連れて、猿沢池近くの奈良市立図書館へ出かけた。外ではあるけど暑くはない、という折衷案(ごまかし系)。
ムスメは絵本は好きなので、相応に楽しんでいる様子ではあった。ただ色々経験値を上げて欲しい親から見ると、新しいものより知っているものばかりを選ぶのが、少々食い足りない気持ち。
うーん、自由にしていい時には自由にしていいんだけどなぁ。どうも「選択」、あるいは「選抜」という行為が、イマイチ苦手っぽい。
ともあれ図書館は5時で閉館。外へ出て猿沢池の所まで出てきたら、池に船が浮かんでいて、ああ、采女祭(うねめまつり)か、もうそんな時期か、と気付かされた。
采女(うねめ)とは、天皇の食事の配膳を主業務とする女性の職名で、全国の地方豪族の子女から選抜されていた。容姿に優れた者が募集されていたため、天皇の寵を得て子を成す事もあったという。
この采女祭は、奈良時代のさる天皇の寵愛が衰えたのを嘆いて、猿沢池で入水自殺した采女の霊を慰める祭りで、毎年中秋の名月の頃に行われる。猿沢池の畔には采女を祀るために建てられた小さな社もあるが、我が身を投じた池を見るにしのびないと、一夜のうちに社は池に背を向けたという伝説があり、事実池端の社はその通りの姿で今もある。
尚この采女の女性たちは、当時の男性の憧れの的であったという。地方出身者なので身分は低いが、容姿端麗で教養高く、触れることは天皇以外許されない、文字通りの高嶺の華。
藤原鎌足などは、天智天皇から采女の安見児(やすみこ)を与えられた際、うれしさのあまり
われはもや 安見児得たり 皆人の 得難にすとふ 安見児得たり
(私は安見児を得た、皆が手に入れられないと言っていた、あの安見児を得たのだ)
と詠んだ歌が万葉集に残されている。
私の知る限り、これが日本最古の「○○は俺の嫁」である。また鎌足のこの喜び様と対象の不可触性は、空やテレビや二次元から女の子がやって来た、というシチュエーションを想起させる。日本男児の薄暗い性根が、既にこの時現れているような気がする。
ともあれ中大兄皇子と共に蘇我入鹿を暗殺し、大化の改新を断行した剛腕政治家ですらハアハアするという采女いかほどと、興味の尽きぬ向きは自分の身に置き換えて「もし○○が俺の嫁だったらムハー!」と妄想するがよい。
で。携帯で軽く船の写真を撮ってTwitterに投げた所、友人から「采女は福島の郡山と繋がりがあるって知ってる?」とリターンが来た。何それ知らない知らない!「郡山うねめ祭で検索」と指令が来たので早速ググる。
結論から言うと、采女の入水は偽装でした!
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昔々、陸奥の国安積の里(現・郡山市)が冷害に苦しんだある年、中央への貢物の代わりに采女として奈良に献上された、春姫という里長の娘がいた。実は春姫には次郎という相愛の許嫁があったが、国の貧窮を救うため、しかも三年間の税免除と引き換えとあらば是非も無く、あたかも生木を裂くがごとき、苦衷極まる滂沱の別れ。
都での春姫は帝の蘢愛を受けてはいたが、次郎恋しの思いは募るばかり。そして一心を決した仲秋の名月の夜、春姫は猿沢の池畔の柳に衣をかけ、入水したように見せかけ、愛する次郎の待つ安積へと密かに逃走したのだった。
苦難は察して余りある、ざっと見積もっても700kmは優に超える、険路難路を女の身で踏破したとは、まこと岩をも徹すは恋の一念。だがようやく辿り着いた安積の里で待っていたのは、次郎既に死すという無情の知らせ。春姫が去った後、絶望の果てに次郎は、安積山麓の山の井の清水に身を投げていたのだった。春姫の悲嘆、いかばかりであったか。
そしてみちのくに雪の降るある夜、氷れる山の井の清水の淵に、春姫の悄然たる孤影があった。
恋しい人が黄泉路の向こうと言うならば、再び旅立つだけの事。
…その水音を聞いた者があったかどうか、雪も氷も黙して語らぬ、悲恋の一席でございました。
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最初聞いた時は「義経=チンギス・ハーン説」的なものかと思ったのだが、調べて気分出しつつ書いてたら、目が潤んじまったぜコンチクショー。
尚、個人的に次郎と春姫は、それぞれ15歳と13歳という俺設定。この古人の恋の爆発力は、10代前半が妥当かと。ちなみにロミオとジュリエットも15歳と13歳。
しかしふと、先程の安見児(やすみこ)を得た鎌足の狂喜とか、差し出すや三年分の貢物が免除された事とかを思い出すと、お前らどんだけ13歳女子に価値見出しとんねんと少々引く。
さらに13歳女子は奈良の帝の屋敷から逃走→700km踏破の大冒険をこなすというのに、15歳男子は悲嘆の揚句、とっととドザエモン・チーンに成り果てるこの淡白さ。『もののけ姫』でたとえるなら、サンと木霊くらいの生命力の差。この辺りにも日本男児の薄暗い性根が、既にこの時現れているような気がする。
毎年采女祭の際には、郡山から「ミスうねめ」の美女達が遠路来てくださるようであるが、何やら今年は「超逃げてー」という気持ちがぬぐえないのだよ御立ち会い…。

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